水田

それは今年の1月、入院していた母が数か月ぶりに退院した日のことだった。

娘二人は母を連れて帰り、同じ日にレンタルのベッドが届いたり、手すりを付けたりする工事の人もやってきた。

そんな時事件は起こった。

何しろ5か月近くも人の気配がない家の空気は奇妙な雰囲気だったが、レンタルのベッドが入るという和室の中央に、長女は黒い小さな物体を発見し、すぐさま妹を呼んだ。妹は和室に入り、物体の近くまで歩み寄った後

「え~っ!?動かんけど、ちょっとあたしじゃ無理ィ」
と言って、玄関で手すり工事をしている人を呼んだ。

工事の人は、すぐさま駆けつけて動かぬ物体に顔を近づけるとこう言った。
「あ!こりゃぁ、ゴキ✖✖が凍死しとるんですよ」

姉妹は顔を見合わせて絶叫した「え~っ!?G-!?凍死?!?」

次の瞬間妹は
「ママっ!Gよ!G!あたしじゃ無理!ほんとごめん。これだけは無理!」

と叫んだのだが、骨折してまだちゃんと歩けないハズの母が早急に現れた。しかも何故あったのか、どこに置いていたのか、いつの時代のものなのかわからない「ハエたたき」を手にして。

Gの第一発見者である長女は、その間となりのキッチンの椅子の背もたれをつかんだまま立ち尽くし微動だにせず、その一部始終をボーゼンとしながら見ていたという。

私は思う。この時の母の行動は、何だったのだろうと。子を思う母としての反応なのだろうか?それとも?

そして、もう一つ。三男が巣立っていったら私は気ままで陽気な一人暮らしになるのだが、このGをめぐる案件が脳裏を横切り私を一瞬凍りつかせる。

若葉萌え、虫がぞろぞろ動き始めて思い出した事件であった。