春はあけぼの~を絵にかいたような
卵の黄身のような朝日が
霞の中に浮かぶ

揺れる桜の木の上には
黄金に輝く
西の空のブルームーン

未明の荘厳さ
本堂の前に広がる気配
えも言われぬ美しさ

もしかしたら
御大師様もこの景色をご覧になったのだろうか

忘れないように目に焼き付けておこう
茨木のり子の詩のように。

茨木のり子詩集『鎮魂歌』から

私のカメラ」


それは レンズ

まばたき
それは わたしの シャッター

髪でかこまれた
小さな 小さな 暗室もあって

だから わたし
カメラなんかぶらさげない

ごぞんじ? わたしのなかに
あなたのフィルムが沢山しまってあるのを

木洩れ陽のしたで笑うあなた
波を切る栗色の眩しいからだ

煙草に火をつける 子供のように眠る
蘭の花のように匂う 森ではライオンになったっけ

世界にたったひとつ だあれも知らない
わたしのフィルム・ライブラリイ

出典:花神ブックス1茨木のり子 花神社